
華やぐ宵に、香のしずく
灯籠のほの暗き光に照らされし遊郭の廓、その奥に一人の花魁が座したり。艶やかな紅の襟元は月明かりにさえ妖しく映え、薄絹越しに覗く白肌は、雪解け水のごとき滑らかさを思わせる。
髪は黒雲の如く艶を帯び、黄金の簪(かんざし)がそこに一滴の星を宿すが如し。艶然たるその微笑みは、見つめる者の心を惑わせ、膝を屈せしめる魔力を秘めたり。
「いかがなされますか、旦那様。」
低く囁く声には、薄紅の梅香が漂うような柔らかさがあり、されど言葉の奥底には、千年を生き抜きし蛇のごとき底知れぬ深みを持つ。
屏風の向こうから聞こえる三味線の音に合わせ、白い指が杯を持ち上げる。指先の動きひとつひとつが、春風にそよぐ柳のようにたおやかであり、見る者の視線を引き寄せて離さぬ。
一座の男たちは、その一挙手一投足に心を奪われ、彼女の言葉に籠められた謎を解き明かそうとする。しかし、その奥底に触れることは誰にも叶わぬ。彼女の笑みの背後には、数知れぬ哀しみと喜び、誇りと儚さが隠されているからだ。
この世の春を謳歌する彼女は、夜露に濡れる牡丹の花のように美しく、されどその命が儚きことを自ら知る者である。だからこそ、彼女の美しさには刹那の輝きが宿る。

フォトエッセイ 「恥ずかしいです・・姿を見られるのが怖いです」