
「脱ぐのは、着物ではありません・・恥じらいと孤独だ。」
静まり返ったスタジオに、午後の光がやわらかく差し込んでいた。白い壁、無機質な床、その中央に置かれた一脚の椅子。彼女は入口で一瞬立ち止まり、小さく息を整えた。初めてのヌード撮影――胸の奥で、期待と不安がせめぎ合っている。
写真家は機材の準備を終えると、彼女の方へ歩み寄った。穏やかな眼差しで、急かすことなく言葉を置く。
「脱ぐのは、着物ではありません。」
彼女の指先がわずかに強ばる。写真家は続けた。
「これまでに身に付けた常識という既成観念です。真に脱ぐのは、恥じらいと孤独だ。」
その言葉は、命令ではなく、そっと差し出された鍵のようだった。彼女は目を伏せ、ゆっくりと呼吸する。心の中に重ねてきた「こうあるべき」が、薄紙のように剥がれていくのを感じた。
衣擦れの音が小さく響き、やがて沈黙が戻る。だが、それは先ほどの緊張の沈黙ではない。何かを手放した後の、澄んだ静けさだった。
「大丈夫。あなたのままで。」
シャッターの音が、柔らかなリズムを刻む。ポーズを作ろうとした瞬間、彼女はふと力を抜いた。飾らない姿勢、隠さない視線。そこにあったのは裸身ではなく、殻を脱いだ存在そのものだった。
撮影が進むにつれ、彼女の表情は変わっていく。怖れの影が薄れ、代わりに静かな確信が宿る。光は肌をなぞり、空気は彼女を包み、時間さえ味方のように流れた。
最後の一枚を撮り終えたとき、写真家は深く頷いた。
彼女はそっと微笑む。何を脱いだのか、もうはっきりとわかっていた。椅子の上に残されたのは衣服だけ。心には、軽やかな自由だけが残っていた。




















