山谷花純写真集 遠距離、現在此。3,850円
冷たい雨がアスファルトを叩きつける夜、玲子は薄暗い路地裏で立ち尽くしていた。彼女の足元には濡れた段ボール箱が置かれ、その中にわずかな所持品が乱雑に詰め込まれている。家、仕事、家族――すべてが一夜にして彼女の手の中からこぼれ落ちた。
玲子はかつて、都会のビル群を眺めながらコーヒーを飲むのが日課のキャリアウーマンだった。広告代理店でチームリーダーを務め、忙しさの中に充実感を見出していた。しかし、その日常は突然終わりを告げた。ある日、信頼していた同僚が裏切り、彼女のプロジェクトの失敗をすべて彼女の責任にすることで会社を追われたのだ。仕事を失ったことで収入が途絶え、家賃の支払いも滞るようになった。
その後の彼女の生活は坂を転げ落ちるようだった。家を失い、親友だと思っていた人々も次第に距離を置くようになった。両親とは数年前に価値観の違いから絶縁しており、頼れる人は誰一人としていなかった。

雨が止む気配のない空を見上げると、玲子の頬を冷たい涙が伝った。しかし、それは悲しみだけの涙ではなかった。ふと、彼女の胸にかすかな決意が芽生える。「すべてを失ったということは、これからすべてを新たに始められるということかもしれない。」
玲子は段ボール箱をしっかりと抱え直し、近くの公園に向かった。濡れたベンチに腰を下ろし、古びたノートを取り出す。それは、学生時代に使っていた日記帳だった。ノートを開くと、玲子がかつて夢見ていたことや、大切にしていた小さな願いが書き込まれていた。
「子どもの頃、あんなに好きだった絵を描くこと、もう何年もしていなかったな。」玲子はそう呟くと、公園の静かな一角で絵を描き始めた。周囲の目など気にする余裕はなかった。雨音と共に鉛筆が紙を走る音が、彼女の心に不思議な安らぎをもたらした。
数週間後、玲子は小さなカフェの壁に、自分の絵を飾るチャンスを得た。カフェのオーナーが偶然、彼女の絵を見て興味を持ったのだ。お客さんの中には絵を気に入る人もおり、少しずつ作品が売れるようになった。新しい出会いや評価が、玲子の心を徐々に温めていった。
やがて、玲子は自分のギャラリーを持つまでに至った。絵を通して彼女は人々の心に触れ、同時に自分自身の傷を癒していった。失ったものは多かったが、それによって得た新しい人生の形もまた、彼女にとっての財産となった。
玲子は、過去の痛みを思い出すたびに心の中でこう囁いた。「失うことは怖い。でも、その先に広がる可能性を信じる勇気があれば、人は何度でも立ち上がれる。」

フォトエッセイ 「恥ずかしいです・・姿を見られるのが怖いです」
フォトエッセイ「すべてが一夜にして彼女の手の中からこぼれ落ちた」
フォトエッセイ 「これが私なの?」鏡の前で身を晒した・・
山谷花純写真集 遠距離、現在此。3,850円