フォトエッセイ “自分を愛するための道具”

彼女の名前は澤田佳織、35歳。都内の広告代理店で企画職に就き、日々の忙しさに流されるように暮らしている。残業の多い職場だが、同僚たちとの飲み会はほとんど参加しない。家に帰れば部屋着に着替え、スマホで海外ドラマを見ながら、コンビニで買ったワインを飲む。そんなルーチンが心地よかった。

その夜も佳織はいつも通り帰宅し、部屋着に着替えると、冷蔵庫からコンビニで買った赤ワインを取り出した。ラベルには「夜の誘惑」という、どこか芝居がかった名前が印刷されている。彼女はワインを注ぎ、ガラス越しに見える都会の夜景をぼんやりと眺めた。

疲れていた。

しかし、どこか心の奥に沈殿する倦怠感が、身体の中で静かにうごめいているのを感じていた。まるで古びたビニール袋に閉じ込められた空気のように、それは形を持たず、けれども確実に存在している。

ふと、佳織はベッドサイドの引き出しを開けた。その中には、彼女が一度も使ったことのない小さな箱があった。友人から冗談半分でプレゼントされたものだった。

“自分を愛するための道具”と書かれたラベルが箱に貼られている。何も考えず、佳織はその箱を手に取り、ベッドの横にあるソファーに身を崩した。

彼女は自分に問いかけた。

――これって不埒な行為なんだろうか?

その問いは、自分自身の中に潜む抑圧を静かに炙り出した。佳織はこれまで、誰かと一緒にいる時間や、仕事の成果でしか自分の価値を測れないような生き方をしてきた。だけど、この行為はどうだろう? 誰のためでもなく、自分自身のために行うもの。それは、もしかしたら一番正直で、真っ直ぐな行為なのかもしれない。

佳織は恐る恐る箱を開けた。中には滑らかな曲線を描く小さなデバイスが収められていた。触れるとひんやりと冷たかったが、その感触はどこか安らぎを感じさせた。

部屋の明かりを消し、彼女は静かに目を閉じた。

その瞬間、佳織は自分が一人であることを強烈に意識した。しかし、その孤独はどこか温かいものに変わっていくのを感じた。それは、自分を否定する誰もいない、完全に自由な空間だった。

彼女は、これまで触れることを避けてきた心の奥深くに触れた気がした。その奥にある感覚は、単なる快楽以上のものだった。それは、自分を許し、自分を受け入れるという行為に近かった。

夜が更け、佳織はそっと目を開けた。

薄暗い部屋の中、彼女は静かに涙を流していた。その涙が何のためのものかは分からなかった。ただ、心の中のビニール袋が破れたような、そんな解放感があった。

「私、こんなに疲れてたんだな」

佳織は呟いた。

翌朝、彼女は早起きし、いつもより念入りにメイクをした。駅へ向かう途中で通り過ぎる人々の顔が、これまでより少しだけ鮮やかに見えた。澄んだ空気の中で、佳織はそっと深呼吸をした。

それは彼女にとって、小さな革命だった。

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Tetsuro Higashi

I was born and brought up in Tokyo Japan. Now I teach mathematics . At age 20 I took up painting. I took up taking photos before 5 years. I have learned taking photos by myself . I grew up while watching ukiyo-e and have learned a lot from Sandro Botticelli , Pablo Picasso. Studying works of Rembrandt Hamensz . Van Rijn, I make up the light and shadow. * INTERNATIONAL PHOTO EXPO 2015 / 26 February ~ 31 March Piramid Sanat Istanbul, Turkey * World Contemporary Art 2015 Nobember Piramid Sanat Istanbul, Turkey * Festival Europeen de la Photo de Nu 06 ~ 16 May 2016 Solo exposition at palais de l archeveche arles, France *2016 Photo Beijing 13~26th October *Sponsored by Tetsuya Fukui 23 February - 02 March 2019 Cafe & Bar Reverse in Ginza,Tokyo,Japan *Salon de la Photo de Paris 8th – 10th – 11th 2019 directed by Rachel Hardouin *Photo Expo Setagaya April 2020 in Galerie #1317 *Exhibition NAKED 2020 in Himeji    Produce : Akiko Shinmura      Event Organizer : Audience Aresorate December 1th ~ 14th  2020

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