フォトエッセイ 「憂いの織物」

憂いの織物

憂いは夜の庭園で一匹の黒猫のように、私の足元を滑らかに通り抜けていく。月明かりはその毛皮に銀の光を纏わせるが、影は決してその本質を裏切らない。憂いとはそういうものだ。触れることができそうで、触れた途端に消えてしまう幻影。その本質は私たちの記憶や予感の奥深くに巣くい、いつでも私たちのそばにいる。

私の憂いは、ある晩の夢から始まった。その夢の中で、私は一羽の羽根を失った鳥だった。飛ぶことができない私は、地上を歩きながら風を感じるしかなかった。風は優しくも冷たく、空の広がりを囁くように私の耳元を撫でた。羽根を失った喪失感と、地上の美しさを同時に味わうことが、憂いの二重性を私に教えてくれた。

目覚めたとき、私はその夢が現実とどこかで交差していることを感じた。私たちの日常は、夢と現実が混ざり合う奇妙な織物だ。夢の中の羽根は、失われた何かの象徴であり、またこれから得られる何かの予兆でもある。憂いは、その織物の中で深いブルーの糸として存在し、全体を彩る。

憂いは静かにやってくる。嵐のように荒々しくないし、悲しみのように涙を伴わない。それは、夏の午後に落ちる影のように忍び寄る。そして気づけば、私たちの心に不可解な形をした空洞を作り出す。けれども、その空洞がなければ私たちは自分自身の深さに気づくことはないのだ。

レオノーラ・キャリントンの作品に登場する魔術的な動物たちがそうであるように、憂いもまた私たちの一部でありながら、私たちを超えた存在だ。それは個人の感情であると同時に、宇宙的なリズムの一環でもある。憂いは私たちに静かに囁く。「あなたはひとりではない」と。その声は、私たちを絶望から救い上げるものではないけれど、その声があること自体が慰めになる。

ある日、私は古びた木製の椅子に座りながら、憂いに耳を傾けてみた。椅子の足元には、苔が生え、少しずつ木が朽ちていく音が聞こえた。その音は、私の中の憂いと共鳴しているようだった。「時間は流れ、すべてが変わる」と、その音が語りかけているように思えた。そして私は気づいたのだ。憂いとは変化の予感であり、その変化に抗おうとする私たちのささやかな抵抗でもあるのだと。

憂いが去るとき、それはまた新しい形で戻ってくるだろう。私はそのことを知っている。だからこそ、私はその訪れを恐れない。それは夜明け前の暗闇と同じで、やがて光に置き換わるのだから。

憂いの中で私は、キャリントンの描く動物たちや幻想的な風景を思い描く。彼女の世界では、すべてが生きていて、すべてが変わり続けている。私たちの中の憂いもまた、変わりゆく宇宙の一部なのだ。それを思うとき、憂いはもはや恐ろしいものではなくなる。それはただ、私たちがこの世界に生きている証しとなるのだから。

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Tetsuro Higashi

I was born and brought up in Tokyo Japan. Now I teach mathematics . At age 20 I took up painting. I took up taking photos before 5 years. I have learned taking photos by myself . I grew up while watching ukiyo-e and have learned a lot from Sandro Botticelli , Pablo Picasso. Studying works of Rembrandt Hamensz . Van Rijn, I make up the light and shadow. * INTERNATIONAL PHOTO EXPO 2015 / 26 February ~ 31 March Piramid Sanat Istanbul, Turkey * World Contemporary Art 2015 Nobember Piramid Sanat Istanbul, Turkey * Festival Europeen de la Photo de Nu 06 ~ 16 May 2016 Solo exposition at palais de l archeveche arles, France *2016 Photo Beijing 13~26th October *Sponsored by Tetsuya Fukui 23 February - 02 March 2019 Cafe & Bar Reverse in Ginza,Tokyo,Japan *Salon de la Photo de Paris 8th – 10th – 11th 2019 directed by Rachel Hardouin *Photo Expo Setagaya April 2020 in Galerie #1317 *Exhibition NAKED 2020 in Himeji    Produce : Akiko Shinmura      Event Organizer : Audience Aresorate December 1th ~ 14th  2020

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