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「記憶の断片が散りばめられている」
柔らかな朝の光が、カーテンの隙間から滑り込むように差し込み、部屋全体に淡い輝きを与えていた。その光は彼女の素肌に触れるたび、目に見えない筆のように曲線を描いていく。腰から背中、そして肩甲骨のなめらかな起伏を、まるで愛おしむように撫でていく様子は、どこか宗教的ですらあった。
彼女は窓辺に立ち、顔は壁に向いている。裸の背中は無防備で、それがかえって圧倒的な存在感を放っている。彼女の後ろ姿には、物語が隠れているような気がした。どこか遠くを見つめる目線の先には、彼女だけが知る風景が広がっているのだろう。その風景には、喜びも悲しみも混じり合い、彼女を作り上げた記憶の断片が散りばめられているのかもしれない。
「何を想い描いているの?」
問いかけたい衝動をぐっと抑える。言葉を放つことで、この静寂と美しさが壊れてしまうのではないかという恐れがあった。それに、答えが返ってくるとは限らない。彼女が何を見ているのか、それは彼女自身にもわからないのかもしれない。ただ、光と影の中で浮かび上がるその姿だけが、この瞬間の真実なのだ。
背中に沿うように流れる髪が、ゆるやかに風に揺れる。その動きひとつひとつが生きている。彼女が呼吸するたび、光が一瞬揺らぎ、影が生まれる。その反復は、心臓の鼓動のように規則正しく、それでいてどこか不規則だ。
部屋の中には、他には何もない。最低限の家具と、どこか無造作に置かれたガラスのコップだけが彼女の存在を引き立てている。窓越しの光がコップに反射し、微かに壁を揺らす光の影絵を描いている。まるで、彼女の存在そのものが周囲を浄化していくようだ。
この瞬間を切り取れるものがあるとすれば、それは記憶だろう。写真や言葉に残すには、この光景はあまりにも儚い。人の心にだけ刻まれる刹那の美。それが彼女の立ち姿の持つ力だった。
彼女は何も語らない。ただ、そこに立っているだけだ。それでも、その背中には世界が詰まっている。その光景を見つめることで、自分の中にもまた別の世界が生まれるような感覚に陥る。
彼女が窓辺を離れた後も、光は部屋に残り続けた。けれど、その光には、もう彼女の温もりは宿っていなかった。彼女が立っていた場所だけが、ぽっかりと空虚に見えた。その瞬間、世界が少しだけ色を失ったように感じた。
戦国小町苦労譚(コミック)726円
フォトエッセイ 「恥ずかしいです・・姿を見られるのが怖いです」
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