ラフマニノフの音楽「様式」ではなく、「感情の構造」

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「様式」ではなく、「感情の構造」

セルゲイ・ラフマニノフの音楽を語るとき、「様式」として捉えるか、「感情の構造」として捉えるかで、その本質は大きく変わる。

様式とは、いわば外側に見える衣である。後期ロマン派特有の豊かな和声、長大な旋律、重厚なピアノ書法――それらは確かにラフマニノフの音楽を特徴づける。しかし、それだけを取り出せば、彼の音楽は「時代の最後の継承者」という枠の中に収まってしまうだろう。美しく、しかし過去に属するものとして。

だが実際に彼の音に触れるとき、私たちが受け取るものは、そうした外形ではない。もっと内側にある、「感情がどのように生まれ、流れ、変容していくか」という動きそのものである。

ラフマニノフの旋律は、単なる主題ではない。それはしばしば、ひとつの感情が言葉を探しながら立ち上がる過程のように始まる。低く沈んだ音域から現れ、ためらい、ため息のように伸び、やがて大きな弧を描いて高みに至る。その過程には、決して一直線ではない“揺らぎ”がある。まるで人が何かを思い出し、言いかけては飲み込み、そしてようやく口にするような時間の流れである。

和声もまた、単なる響きの装飾ではない。彼の和声進行は、安定と不安定の間をたゆたう。解決に向かうはずの流れが、ふと横道に逸れ、思いがけない陰影を落とす。この「逸れ」は、技法的な工夫というより、感情が直線的に整理されることを拒む証のように感じられる。人の心がそうであるように、彼の音楽もまた、常にどこか未解決の余白を残す。

さらに注目すべきは、時間の扱いである。ラフマニノフはテンポを固定された枠としてではなく、呼吸として扱う。伸び、縮み、留まり、流れる。その時間のゆらぎは、感情の強度そのものと結びついている。強く感じる瞬間は時間が引き延ばされ、通り過ぎる感情は軽やかに流れていく。この「時間の変形」こそが、彼の音楽を単なる楽譜以上のものにしている。

つまりラフマニノフの音楽とは、「何を感じるか」ではなく、「どのように感じるか」を描いたものなのである。

この視点に立つと、なぜ彼の音楽が現代においても生き続けるのかが見えてくる。様式は時代とともに古びる。しかし、感情の構造――感情が揺れ動き、迷い、形を変えていくそのプロセスは、時代を越えて変わらない。むしろ現代のように価値観が多様化し、内面が複雑化した時代において、彼の音楽はより深く共鳴する。

そして演奏者は、その構造の中に自らの感情を流し込む。だから同じ楽譜であっても、演奏のたびに全く異なる「生」が立ち上がる。ここにおいてラフマニノフは、過去の作曲家ではなく、「いま、ここで感情が生成される場」として存在する。

様式は模倣されうる。だが、感情の構造は、体験されることでしか理解されない。

ラフマニノフの音楽が今なお私たちに迫ってくるのは、その構造が、聴く者の内側で再び組み立てられるからにほかならない。彼の音楽は完成品ではなく、聴くたびに生成される「感情の運動」そのものなのである。

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Tetsuro Higashi

I was born and brought up in Tokyo Japan. Now I teach mathematics . At age 20 I took up painting. I took up taking photos before 5 years. I have learned taking photos by myself . I grew up while watching ukiyo-e and have learned a lot from Sandro Botticelli , Pablo Picasso. Studying works of Rembrandt Hamensz . Van Rijn, I make up the light and shadow. * INTERNATIONAL PHOTO EXPO 2015 / 26 February ~ 31 March Piramid Sanat Istanbul, Turkey * World Contemporary Art 2015 Nobember Piramid Sanat Istanbul, Turkey * Festival Europeen de la Photo de Nu 06 ~ 16 May 2016 Solo exposition at palais de l archeveche arles, France *2016 Photo Beijing 13~26th October *Sponsored by Tetsuya Fukui 23 February - 02 March 2019 Cafe & Bar Reverse in Ginza,Tokyo,Japan *Salon de la Photo de Paris 8th – 10th – 11th 2019 directed by Rachel Hardouin *Photo Expo Setagaya April 2020 in Galerie #1317 *Exhibition NAKED 2020 in Himeji    Produce : Akiko Shinmura      Event Organizer : Audience Aresorate December 1th ~ 14th  2020

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