
縄の束縛と自由の狭間にある想い
あの夏の日差しは、記憶の中でなお白く光を放っている。木漏れ日が揺れる庭で、彼女が静かに座っていたのを思い出す。手には古びた麻縄を握りしめ、彼女の指先が繊維の粗い感触を繰り返し確かめていた。
「何をしているの?」
彼女に向かって声をかけると、その小さな肩がぴくりと震えた。顔を上げた彼女の目には、どこか遠いところを見るような焦点の定まらない光が宿っていた。
「この縄、父が使っていたものなの。」
その一言に、私は立ち止まった。彼女の家は農家で、父親はすでに亡くなって久しかった。小さな庭の片隅に置かれた古びた農具たちの中に、父の面影を宿すものがいくつもあった。だが、その縄は特別だった。
「父が私を縛るために使った縄。」
彼女はあっけらかんと言った。それは衝撃的な告白だったはずなのに、彼女の声にはどこか乾いた軽さがあり、現実味を薄めていた。私はその言葉を咀嚼することができず、ただ彼女の手元を見ることしかできなかった。
「なぜ、そんなことを?」
彼女はゆっくりと首を傾げた。
「さあね。”教育のため”とか言ってた。でも、本当の理由なんてわからない。ただ、そのときの父の顔が怖かった。それだけ覚えてる。」
風が通り過ぎる音がした。庭木の葉がざわざわと揺れる音が、彼女の言葉の隙間を埋めた。
「でもね、不思議なの。」
彼女は手元の縄を持ち上げ、日の光に透かすように見つめた。
「これを見ると、なんだか安心するのよ。束縛されていたはずなのに、今はこれが自由を感じさせてくれる。」
「自由?」
「うん。人って、何かに縛られている方が安心することもあるんだよね。私にとってこの縄は、その証拠みたいなものかな。」
彼女の言葉には不思議な説得力があった。私もまた、自分の中にある見えない縄を思い浮かべた。社会の規範、家族の期待、自分で自分を縛る不安。そのどれもが私を束縛しているはずなのに、それなしでは生きられないと感じている。
「これを触ると、父が私を見守っているような気がするの。」
彼女は笑みを浮かべた。その笑みは、まるで長い間抱えてきたものをようやく手放せた人のように穏やかだった。
「縄で縛られるのも悪くないのかもね。自分がどこにいるのか、どこに向かおうとしているのか、それを教えてくれる。」
その後、彼女がどうしているのか、私は知らない。だが、あの時彼女が見せた縄の束縛と自由の狭間にある思いは、私の中に深く刻まれている。時折、自分を縛る見えない縄の存在を感じながら、その束縛の中で見つける自由を思い出す。

あの夏の日差しのように、記憶の中で白く光りながら。
フォトエッセイ 「これが私なの?」鏡の前で身を晒した・・