
フォトエッセイ「私をそのまま撮って・・」
スタジオには静けさが漂っていた。窓の外から差し込む光が床を斜めに照らし、白いカーテンがわずかに揺れている。その光景は、カメラマンのロバートにとって見慣れたものだった。だが、今日は違っていた。モデルのエレナが部屋の中央に立っていたからだ。
エレナは衣服を脱ぎ、椅子の上に丁寧に畳んで置いた。肌は光を反射し、彼女の輪郭を柔らかく浮かび上がらせている。彼女は動かず、ただ立っていた。その背筋はまっすぐで、目はロバートを見ていない。彼女はカメラの向こうを見ているようだった。
ロバートは、シャッターを切るべきタイミングを掴めずにいた。手の中のカメラが重く感じられる。彼女が何を考えているのか、何を求めているのか、それがわからなかった。
「始めますか?」彼がようやく声を出した。声はいつもより低く聞こえた。
エレナは頷いたが、それはほとんど見えないほどの小さな動きだった。彼女は目を閉じ、深く息を吸った。彼女の胸がわずかに動いたのを、ロバートは見逃さなかった。
「私をそのまま撮って。」彼女は言った。その声は静かで、確信に満ちていた。「何も足さないで。何も引かないで。」
ロバートは頷き、カメラを構えた。ファインダー越しに見るエレナは、今まで撮ってきたどのモデルとも違っていた。彼女の目には恐れがない。その代わりに、彼女自身への揺るぎない信頼があった。
彼女の体には、何かを語ろうとする静かな意志が宿っているようだった。美しさだけではない。彼女は自分が誰であるのかを、カメラに刻みつけようとしているのだ。
ロバートはシャッターを切った。その音が部屋の静寂を切り裂いた。
撮影が進むにつれ、彼は彼女の中に秘められた何かを感じ始めた。彼女が全てをさらけ出しているわけではないことに気づいたのだ。むしろ、彼女は彼に試練を課しているのだと気づいた。
「あなたが本当に私を見られるなら、撮ってみなさい。」そう語るように彼女の姿はそこにあった。
数十分が過ぎ、ロバートはカメラを下ろした。彼は額の汗を拭いながら、彼女に言った。「終わりました。」
エレナはゆっくりと服を手に取り、再び身に着けた。その動きは、儀式のように慎重だった。
「どうでしたか?」彼女が問いかけた。その声には、ほんの少しの期待が混ざっていた。
「まだわかりません。」ロバートは正直に答えた。「でも、何かが写っていると思います。」
エレナは微笑んだ。その笑みは、どこか安堵のようでもあり、挑発のようでもあった。「それならいいわ。」
彼女はスタジオを出て行った。その足音が遠ざかる中で、ロバートはカメラのモニターを覗いた。そこにはエレナがいた。彼女の目が、カメラを通して、彼を見つめ返していた。
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フォトエッセイ 「これは君が生まれ変わるための儀式だ」
彼女は薄暗いスタジオの中央に立っていた。
カメラの前に立つたびに、彼女はひとつずつ剥がしていく。衣服だけではなく、まとわりつく記憶や呪詛のような言葉の残響、それらすべてを。シャッター音が鳴るごとに、彼女は過去の影から一歩ずつ距離を取っていった。
彼女の名は由美。三十七歳、都内の小さな編集プロダクションに勤めていた。どこにでもいるような平凡な女だったが、彼女の中には決して他人には見せられない暗闇があった。父の暴力、母の無関心、そして十代の頃の男たち。ある夜、彼女は偶然SNSで見つけた「アートヌード撮影」の募集に目を止めた。それが、彼女がカメラの前に立つようになった最初のきっかけだった。
最初は恐怖だった。レンズの向こうにいる男の視線が、まるで裸の皮膚を切り裂くように鋭く感じられた。だが、何度もシャッターを切られるうちに、彼女はふと気づく。この行為が、自らを塗り替える作業のように思えた。彼女の身体は、過去の男たちの手垢ではなく、新しい自分のものになりつつあるのだ。
撮影のたびに、彼女は少しずつ開放されていった。シャッターの音が過去を押し流し、ポーズを変えるたびに、新しい自分を獲得していくような感覚があった。
ある日、彼女はフォトグラファーの村上と出会う。彼は彼女の瞳をじっと見つめた。「君は、何かを捨てるためにここにいるのか?」
由美はうなずいた。
「じゃあ、それをちゃんと写真に残そう」
村上は言った。
その日、彼女は今までで最も深く、静かに脱いだ。過去を背負うのではなく、捨て去るように。シャッターの音が鳴り響くたびに、彼女の身体は新たな物語を刻んでいく。かつての彼女はもういない。
撮影が終わると、村上は写真を一枚差し出した。
「これは君が生まれ変わるための儀式だ」
写真の中の彼女は、まるで自分自身を取り戻したかのように、静かに微笑んでいた。
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フォトエッセイ【微笑の女】
小さい部屋の窓から、月光がわずかな光を投げかけていた。その月光は、柄が折れた小さな木製の席に座っている一人の女を照らした。女の姿は壊れた雪人のように露で、膝を抱えて緊繍にため息をしていた。その背中には、苦しい記憶の痛みがあった。
女の名前はマリーヌ。都市の豊かな豪筑で生まれた他の女の子とは違い、マリーヌは昔から母親から食欲を罰せられ、妊婦のように母親の奴隷として生きてきた。她は自らの苦しみを品よく装いながら、問い詰めるような光で奴隷の手によって壊れていく体を眺めるのが常であった。
しかし、まだ若かった小さな日のままで、その子は「美しい」と言われることに気づいた。そして她はその魅力を使い、一度だけでも自分の世界から脱出したいと願った。そこで她はカメラの前ですべてを脱ぎ、夜の月光のような盛大な素材に自身を始めてみせようとした。
マリーヌはその白い膚をさすり、まるでなにかを磨くように微笑を浮かべた。それは她自身が残した、苦しみの局地に達した美しさだった。私はマリーヌの顔を覗き込んだ。そこには、欲望も恐怖も無かった。そこにあったのは、ただ一人の女の味わった悲しみを、多くの人に示したいと願う心だった。
そして、マリーヌは私に傾き返るように居ました。シャッター音が残る中、她の顔には、汚れた流れ星のような微笑が浮かんでいた。
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子を宿したときの女性の讃歌
新しい命を宿した女性の姿ほど、神秘的で力強いものはない。母になる瞬間、それは生物としての奇跡であり、精神としての覚醒であり、そして人生の大いなる変化の始まりである。ひとつの細胞がふたつに分かれ、やがてひとりの人間として形を成す過程。そのすべてを、自らの体の内で織りなす女性の存在は、まさに生命の賛歌にほかならない。
妊娠が発覚した瞬間、多くの女性は喜びと驚き、そして不安を同時に抱く。身体の変化は、日常にささやかな不自由をもたらすが、その一方で「自分の中にもうひとつの鼓動がある」という事実に、得も言われぬ充足感を覚えることもある。妊娠初期のつわりに苦しみながらも、やがて胎動を感じたとき、「この命は確かに私とともにある」と実感するのだ。
母となる女性の強さは、単なる肉体的な忍耐にとどまらない。腹を痛めて産む、という言葉があるが、それは単に出産の苦しみを指すものではない。十月十日のあいだ、自らの身体を削り、内臓を押し上げ、血流を分け与えながら、次第に子を迎え入れる準備をする。その変化を受け入れ、乗り越える姿は、まさに「創造の女神」とも呼べるものではないだろうか。
妊娠期間中、女性の心はしばしば大きく揺れる。喜びの中にも、未知の未来に対する不安が混ざる。母親になるということは、ただ単に子を産むという行為ではなく、ひとりの人間を育み、その未来を見守る責任を背負うことを意味する。果たして自分は良い母親になれるのだろうか、ちゃんと守っていけるのだろうか――そんな問いが頭をよぎるたび、母としての覚悟が少しずつ芽生えていく。
ある女性は言った。「子供を宿すことは、ひとつの世界を抱きしめること」。胎内の小さな命は、やがて大地を踏みしめ、空を仰ぎ、未来へと歩み出していく。その生命の旅の始まりを支え、温もりを与えるのが、母親の役割なのだ。妊娠という時間は、たった数ヶ月の出来事かもしれないが、それは人生において最もかけがえのない、一瞬の永遠である。
出産を経た女性は、もはやそれまでの自分ではない。肉体は変わり、心は広がり、新しい視点で世界を眺めるようになる。そして彼女たちは知るのだ。痛みの果てに生まれた小さな命が、愛と希望を運んでくることを。その瞬間、世界はほんの少しだけ、美しく輝きを増す。
妊娠とは、人生のほんの一時の通過点ではなく、人間という存在が持つ神秘のすべてが詰まった特別な旅路である。すべての母となる女性に、私は心からの敬意を表したい。彼女たちは、世界を生み出し、未来を育てる存在なのだから。
フォトエッセイ 「恥ずかしいです・・姿を見られるのが怖いです」
フォトエッセイ「すべてが一夜にして彼女の手の中からこぼれ落ちた」
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