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「ないものねだりをいつまでするんだい?」
夜明け前の港は静かで、波の音だけが耳に届いた。風は冷たく、冬が近いことを知らせていた。古びた漁船の脇で煙草をくゆらせていると、隣に住む老船長が近づいてきた。顔は風と太陽に焼かれ、深い皺が刻まれている。彼はいつも淡々としていたが、その目は鋭く、何かを悟っているようだった。
「ないものねだりをいつまでするんだい?」
そう言って、彼は私の手に温かいコーヒーを押し付けた。その言葉は突然すぎて、最初は意味を理解できなかった。ただ黙ってコーヒーをすすりながら、問いかけの真意を探ろうとした。
「どういう意味です?」と尋ねると、彼は海の方を見ながら話し始めた。
「若い頃は、俺もあれが欲しい、これが欲しいと思っていた。もっと大きな船があれば、もっと腕のいい乗組員がいれば、もっといい網があれば……そう思って生きてきたよ。でも、ある日気づいたんだ。どれだけ欲しがったところで、俺にとって必要なのは、この古びた船と自分の腕、それだけだったってな。」
その言葉には、長い年月の重みと真実が詰まっていた。私は返す言葉を探したが、うまく見つからなかった。船長の話はそのまま続いた。
「もちろん、欲しいものがあるのは悪いことじゃない。目標になるからな。でも、それに溺れてしまうと、いま自分の手元にあるものが見えなくなる。結局、大事なのは、いま何を持っているかを知り、それをどう活かすかだ。」
私はその夜、ずっとその言葉について考えた。若い頃から私は、成功への道を必死に探してきた。もっといい仕事、もっといい家、もっといい人生。それを手に入れた先に幸せがあると信じて疑わなかった。でも、船長の言葉に触れて初めて、少しずつ見えてきたものがあった。たとえ手に入れたとしても、欲望に終わりはない。もっと欲しいと思う気持ちは次々と湧き上がってくる。
数週間後、再び港に足を運んだとき、老船長は自分の船を整備していた。私が近づくと、彼は振り返り、微笑みながら言った。
「答えは見つかったか?」
「まだ。でも、少しわかりかけています。」と答えた。
彼はそのまま、網の結び目を指さして言った。
「人生も網のようなもんだ。穴ばかりを見ていると、全体の美しさが見えなくなる。しっかりと結び直しながら、進んでいけばいいんだ。」
その言葉を胸に、私は帰り道を歩いた。欲しいものを追い求めることと、いまあるものを受け入れること。そのバランスの中で、私たちは本当の自分を見つけていくのだろう。風が頬を撫でる中で、私は港の静けさを思い出しながら、少しずつ自分の答えを探し続けていた。

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この辺の作品は”傑作”が続くね・・

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女体のうねり、くねり・・なかなか良いね。