身体という神話

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身体という神話 —— スペイン文学におけるエロティシズムとその伝統

スペイン文学を読み歩いていると、ある感覚にしばしば出会う。それは身体の手触りであり、欲望の重みであり、そしてしばしば、美しさへの畏れである。

セルバンテスの『ドン・キホーテ』においてすら、理性と狂気の間を揺れ動く騎士の幻想の中に、肉体を持たぬ「ダルシネア姫」は神格化された理想の女性として現れる。しかしその一方で、作中に登場する農民の娘たちや旅人たちの素朴な身体、逞しさ、性への暗示的な言葉づかいは、確かにスペイン語の官能的な響きとともに、生きた肉体のリアリティを浮き彫りにしている。

スペインという土地には、陽光の強さと影の濃さがある。そしてそれは文学にも表れる。昼の明るさの中にある露出と、夜の闇に潜む欲望。そのコントラストは、文学における身体の描写にも顕著だ。豊満なバスト、柔らかな腹部、頬の血色、腰のくびれ——こうした肉体の断片は、単なる性的記号にとどまらず、しばしば存在の確かさ、あるいは消えゆくものへの郷愁として描かれる。

現代の男性作家たちも、こうした感覚の延長線上にいる。けれど彼らの眼差しは、一枚のヴェールを通して身体を見る。エロティシズムの対象としての女性ではなく、むしろ語ることの限界を示すものとしての身体。触れられそうで触れられない、見るたびに形を変える、言葉にしようとするほど遠ざかる——そんな身体。

例えば、ある作家は豊満なバストを「沈黙の記号」として描く。そこに宿るのは母性なのか、性なのか、それとも死なのか。いずれにせよ、それは語り手にとって避けがたく魅了される対象であると同時に、捉えがたい謎でもある。男性作家が女性の身体を描こうとするとき、その筆致にはしばしば、崇拝と恐れと未練が交錯する。

だが、それは単なる性的な眼差しの問題ではないと思う。身体とは、究極的には他者であるということ。そして文学とは、その他者をどう言葉にするか、あるいは言葉にできないまま見送るか、という営みなのだ。

スペイン文学の中で身体は、決して沈黙しない。言葉は常にそれを追いかけ、そして追いつけず、しかしまた次の瞬間、新たな形で記述しようとする意志へと変わる。肉体は常に物語を産み、物語は常に肉体を欲する。

それは、おそらく今も変わらない。文学における身体とは、決して枯れない泉であり、そこからまた新しい幻想と真実とが、生まれ続けているのだ。

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Tetsuro Higashi

I was born and brought up in Tokyo Japan. Now I teach mathematics . At age 20 I took up painting. I took up taking photos before 5 years. I have learned taking photos by myself . I grew up while watching ukiyo-e and have learned a lot from Sandro Botticelli , Pablo Picasso. Studying works of Rembrandt Hamensz . Van Rijn, I make up the light and shadow. * INTERNATIONAL PHOTO EXPO 2015 / 26 February ~ 31 March Piramid Sanat Istanbul, Turkey * World Contemporary Art 2015 Nobember Piramid Sanat Istanbul, Turkey * Festival Europeen de la Photo de Nu 06 ~ 16 May 2016 Solo exposition at palais de l archeveche arles, France *2016 Photo Beijing 13~26th October *Sponsored by Tetsuya Fukui 23 February - 02 March 2019 Cafe & Bar Reverse in Ginza,Tokyo,Japan *Salon de la Photo de Paris 8th – 10th – 11th 2019 directed by Rachel Hardouin *Photo Expo Setagaya April 2020 in Galerie #1317 *Exhibition NAKED 2020 in Himeji    Produce : Akiko Shinmura      Event Organizer : Audience Aresorate December 1th ~ 14th  2020

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