古写真のような質感と退色した色彩

古写真のような質感と退色した色彩

ムーンの光の操作は、単なる照明技術ではなく、写真というメディアの物質性そのものを問い直す営みにもつながっている。彼女はしばしばポラロイドや古いフィルムを用い、意図的に色を退色させたり、ノイズやざらつきを取り入れたりする。これにより、作品全体が「時間の経過」を内包するような趣を持ち始める。

この時間性は、光の「今ここ」にしか存在しない性質と結びついている。写真における光は通常、被写体を「記録」するためのものだが、ムーンにとって光は「記憶を呼び起こす」ための媒介である。被写体の背後から滲む光は、まるで過去から漂ってくる幻影のように、画面にそっと現れる。そしてその光が、見る者の心の奥に眠る何かを静かに揺さぶるのだ。