エピローグ

被写体の自己意識との緊張
　鏡を介することで、被写体（女性）は自分自身の像を見つめながら、カメラに向かう自分と鏡に映る自分との間で意識が揺れます。鏡像はリアルな身体と同一ではないからこそ、被写体はそのズレを感じ、複数の自己の座標を引き受けることになります。
　このような自己意識の揺らぎは、被写体がただ“見られる存在”に従属するだけではなく、自己／他者／鏡像という三重構造を演じる可能性を開きます。

視線の分解と転移
　鏡を使えば、撮影者の視線が鏡像側から被写体側へ“反射”するような構図も可能です。すなわち、鏡を見ている視線、その鏡像を見るカメラの視線、そして鑑賞者としての視線、これらが画面上で折り重なり、ある視線の分解と転移を生む。撮影者と被写体の関係だけでは説明できない複数の視点が、画面に潜むのです。

model : Anri Mone

虚実の混交とズレの美学
　鏡は虚像を映す装置です。したがって、鏡によって写された身体像は、実物とは常にズレを含む。これは、撮影技術的には“誤差”と見なされがちですが、芸術的にはズレそのものが美を生成する要素になり得ます。鏡という不完全な媒介があるからこそ、写真的リアリズムを逸脱した“虚実混交”の空間が生成されます。

このような鏡‐視線構造をうまく生かすことで、鏡を使ったヌード写真は、単なる性的な展示とは異なる複雑な意味構造を含み得るわけです。

ジャンルや傾向としての「抽象ヌード」──ダニ・オリヴィエ（Dani Olivier）

フランスの写真家 ダニ・オリヴィエ は、抽象的ヌード写真で知られます。人体を単なる形態的モチーフと見なし、投影パターンや光線の操作、あるいは被写体の運動を取り入れて、身体を視覚的に変奏させる作品を制作します。ウィキペディア

オリヴィエの手法は、鏡そのものを使うこととはやや距離があるものの、身体を単なるリアルな存在ではなく、形態、光、影、投影の媒介物として捉える視線を象徴します。彼の写真には、「身体そのもの」の写実性よりも、「視覚的な変奏可能性」という観点が優先されます。鏡を使った撮影もまた、被写体を写実から媒介的構成へと引きずり込む試みと親和性を持つでしょう。

Mone Anri 美術モデル＆フォトモデル　

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ジャンルや傾向としての「抽象ヌード」──ダニ・オリヴィエ（Dani Olivier）

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Tetsuro Higashi

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