初撮り人妻 ドキュメント

「撮影前夜、私は洗濯物を畳んでいました」

初めてのAV撮影を翌日に控えていても、家でやることは変わりませんでした。タオルを畳んで、食器を片づけて、明日の天気を調べる。持っていく鞄だけが、いつもと違っていました。

参加を決めた理由を、一つにまとめるのは難しいです。お金のこともありました。年齢を重ねた自分が、映像にどう映るのかという好奇心もありました。でも、どちらかだけを言うと、何かを隠している気がします。

結婚してから、自分のことを説明するときは、夫や家庭の話が先に出るようになりました。それを不幸だと思っていたわけではありません。ただ、今回の判断については、自分の希望として話したかったんです。

それでも、当日の朝は引き返そうかと思いました。

駅のホームで、鞄の中の書類をもう一度確かめました。事前に説明を受けた撮影内容と公開の範囲。読んで理解したつもりでも、実際に人前に立つこととは距離がありました。

スタジオに着くと、最初に聞いたのは洗面所の場所でした。鏡の前で髪を直しながら、ずいぶん普通の顔をしているなと思いました。もっと覚悟のある顔になっているはずだと、勝手に想像していたんです。

撮影前の確認では、わからないところを聞き直しました。

「これが嫌になったら、その場で言ってもいいんですよね」

そう口にするまでが、一番緊張しました。承諾したあとで質問するのは、迷惑なのではないかと思っていたからです。けれど、聞かないまま進むほうが、私には怖かった。

カメラの前に座ると、「今のお気持ちは」と尋ねられました。

「緊張しています」

それしか言えませんでした。

あとになって考えると、緊張の中にはいくつもの気持ちがありました。自分の姿を見ることへの期待。誰かに知られることへの不安。夫に何を、どう話すのかという迷い。そして、自分で決めた以上、平気なふりをしなければという意地もありました。

途中で、一度休憩をお願いしました。

水を飲みながら、自分が今どう感じているのか確かめました。撮影に来たからといって、すべてを受け入れられるわけではありませんでした。できることと、したくないことが、実際にその場に立って初めてはっきりしました。

終了後、着替えて携帯電話を見ると、家族から夕食についての連絡が来ていました。

短い返事を送りました。その画面を見ていると、今日の出来事と、これまでの生活を、これから自分がつないでいかなければならないのだと感じました。

帰りの電車では、満足したのか、後悔しているのか、まだ答えが出ませんでした。よかった瞬間も、思い返すと胸が重くなる瞬間もありました。

ただ、撮影前の自分に一つ伝えられるなら、こう言いたいです。

自分で選んだことでも、迷っていい。途中で気持ちが変わったら、それを言葉にしていい。

今の私が確かに話せるのは、そのことです。

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Tetsuro Higashi

Tokyo Japn Photographer

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