フォトエッセイ「類まれな演出力はどこから来るのだろう?」

類まれな演出力はどこから来るのだろう?

その日、彼女はいつものように静かにスタジオに現れた。控えめな挨拶と、軽いストレッチ。機材の準備をしている僕の背後で、そっと髪を束ねる音がした。モデルとの撮影は、言葉を超えて呼吸を合わせる行為だと僕は思っている。だが、彼女の前では、まるでそれが意味をなさない。

ポーズを取ってくださいと僕が言う前に、彼女の身体が、まるで空間の意志を受けて動くかのように、形を変え始めた。やや腰を落とし、片膝を折り、顔をやや伏せる。光の角度を意識しているのか、それとも全くしていないのか、判断できない。ただ、その姿が一枚の絵画のように場を支配した。

圧倒された。ファインダー越しに見える世界が、完全に彼女のものであったからだ。

「演技している」という次元を超えていた。内側から湧き上がる何かが、彼女の指先から、まつ毛の動きに至るまでを導いていた。彼女の存在全体が、ひとつの物語になっていた。撮る者としての僕は、その流れを止めてしまわぬよう、ただシャッターを切るしかなかった。

この演出力は、どこから来るのだろう?

技術か、経験か、それとも天性のものか。そんな問いは、彼女の前では無力だ。おそらく彼女自身すら、それを説明できないだろう。ある瞬間、空間と感情と記憶が、彼女の身体の中でひとつに結びつき、世界を変える。ただそこにあるはずの光景が、異なる次元へと引き上げられる。それを目の当たりにした僕は、シャッターを押しながら、ただ深く、感謝するしかなかった。

撮らせてもらっている。この人が、この空間が、今日のすべてが、奇跡のような一瞬を僕に与えてくれている。そう思えたのは、職業として写真を撮りはじめてから、ほんの数度しかない。だが、その日は間違いなく、その一度だった。

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不明 のアバター

Tetsuro Higashi

Tokyo Japn Photographer

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