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十一夜目の夢
こんな夢を見た。
ひとひらの椿の花が、宙を舞っていた。春でも、冬でもない、季節のあわいのような夕暮れで、空は灰色とも群青ともつかぬ色をしていた。風もないのに、その花は静かに、しかし確かに落ちていた。まるで、見られるためだけに、天からひとりでに舞い降りてきたようだった。
私は、その花を見届けようとして、しばらく動けなかった。
ふと横を見ると、あなたが立っていた。懐かしくて、胸がきしむような感情が喉元までせり上がる。けれど、名前が思い出せない。ただ、知っている。あなたは、私の一部だった人。いや、今も、私のなかに棲んでいる。
「また、会えたね」
あなたは、そう言った。声は覚えているのに、言葉だけが遠い。私はただ、うなずいた。
「まだ、待ってるの?」
私が答えられずにいると、あなたは笑った。それはもう、こちらが泣きたくなるほど、静かで、優しい笑みだった。
「夢の中でしか会えないなんて、不公平だね」
私はようやく言葉を返した。でも、それが声になったかどうか、自分でもわからない。あなたはまた、ただ笑った。そして、その笑顔のまま、歩き出した。私の方ではなく、空のほうへ。もう咲き終えた椿の、落ちた先を追うように。
私はその背中を、追いかけようとしなかった。ただ見送った。それが、夢のなかの約束のような気がした。
そして目が覚めた。
薄明の部屋には、椿の香りがかすかに残っていた。けれど、そんなはずはない。椿など、どこにも咲いていないのだから。
私は起き上がり、窓を開けた。冷たい風が頬を撫でる。まるで、夢の中のあなたが、最後に触れてくれたかのように。
季節は、まだ名前を持たない時季にいた。春の気配も、冬の残り香も、等しく抱きしめるような空気。
私はふと、あの花の落ちた場所を探した。そこには何もなかった。ただ、胸の奥が少しだけ、暖かく、そして痛かった。
夢は、時として現実より真実を語る。
そして私は今日もまた、十二夜目の夢を、静かに待っている。

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