私は長く数学を教えてきましたが、養老孟司先生の文章を読むたびに、「人間を数字だけでは測れない」という当たり前の事実を思い出します。先生は解剖学者として身体を見つめながら、同時に社会や教育のあり方にも鋭い視線を向けておられる。その姿勢に私は深い敬意を抱いています。
特に「脳化社会」という言葉には大きな示唆があります。頭の中だけで世界を理解したつもりになり、身体感覚や自然とのつながりを失っていく現代人への警鐘です。私は田舎を歩き、庭で瞑想し、写真を撮る時間を大切にしていますが、それはまさに身体を通して世界を感じ直す営みなのだと思います。
養老先生の魅力は、難しいことを難しく語らない点にもあります。断定しすぎず、どこかユーモアを残しながら本質を突く。その語り口は、五十年教壇に立ってきた私にとって理想的な知性の形です。知識を誇示するのではなく、人を自由に考えさせる――養老孟司先生は、そういう稀有な思想家だと感じています。

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